大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)31号 判決 1978年6月26日

原告 株式会社川崎パブリツクコース

被告 建設省関東地方建設局長

訴訟代理人 小沢義彦 小満敏一 ほか一一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、原告の河川法第二四条の規定に基づく占用許可申請に対し、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつてした処分のうち、不許可部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二請求の原因

一  原告は、神奈川県川崎市幸区小向及び古市場地先に存する多摩川右岸の河川区域内の土地(以下「河川敷地」という。)について、ゴルフコース建設の目的で占用許可を受け、同所にゴルフコースを設置してその占用を開始し、以後占用面積を減少させながら逐次占用許可を受けて右占用を継続してきた(以下「本件占用」という。)が、その占用許可等の経緯は別表一記載のとおりである。

二  原告は、従前から占用許可を受けて占用していた区域(別紙図面中赤線で囲んだ部分)について、その占用期間満了前の昭和五〇年二月二七日さらに河川法第二四条の規定に基づく占用許可の申請をしたところ、被告は、昭和五〇年三月二七日付建関水第一九四号をもつて、右区域のうち、別紙図面中イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた部分(赤斜線部分)五万五一四〇平方メートルを除くその余の区域一五万五三八三平方メートルについて、期間を昭和五〇年四月一日から昭和五一年三月三一日までと定めて占用許可をしたが、右五万五一四〇平方メートルの部分については許可しない旨の処分をした(以下右処分のうち不許可部分を「本件不許可」という。)。

三  しかしながら、本件不許可は以下に述べる理由により違法であるから、原告はその取消しを求める。

1  本件占用は前述のとおりゴルフコースの設置を目的とするものであつて、当初から相当期間の占用の継続が予定されているものであり、許可処分庁においてもこのことを充分認識して原告に対し占用許可を与えてきたものである。しかるに、多摩川が一級河川に指定され、その管理権が建設大臣に移管した昭和四一年四月一日以降の占用許可についてみても、その占用期間は別表一記載のとおりいずれも不相当に短い定めとなつており、右占用期間によつては前記占用目的を達成しえないことは明らかである。そして、右各占用期間満了の際の占用許可申請手続は、全く新たな占用許可申請とは異なり、従来の占用を前提とした簡易かつ形式的なものであり、これに対しては極めて形式的にくりかえし更新が認められてきたものである。このような場合における占用期間の性質は、その期間の満了によつて占用関係が当然に消滅するというものではなく、占用関係の存続すなわち期間の更新がされることを前提とし、主として許可処分庁において従前の占用許可に係る許可条件を改訂する機会を留保するとの意義を有するにすぎないものと解すべきであり、占用期間の満了に伴つてされる占用者からの新たな占用許可申請は、実質的には占用期間更新の申請であり、これに対してされる許可も、手続上は新たな占用許可の方式によつているが、実質上は新たな占用権の設定ではなく、既存の占用についてその期間を更新するとともに従前の許可条件を承認ないし改訂するとの意味を有するにすぎないものというべきであるし、右申請に対してされる不許可は、実質的には、占用期間の更新の拒絶であつて、右更新の拒絶については正当な理由を必要とし、これを欠くものは違法と解すべきである。

右のように、本件不許可は、実質的には占用期間の更新の拒絶というべきところ、右不許可については正当な理由は全くないから違法である。すなわち、本件占用によつて、治水上又は水利上の支障を生ぜしめあるいは河川の自由使用を妨げたり、河川及びその付近の自然的、社会的環境を損う等の虞は一切ないし、原告において昭和四四年一月一日返還した従前占用区域の一部一一万九四〇五平方メートルは、原告が現在占用している区域に隣接しているが、返還後何らの利用もされず荒廃したまま放置されているのであり、このことからすれば本件不許可に係る区域についても他に利用する必要性は全くないものというべきである。

2  本件占用に係る河川敷地は、戦前ゴルフ場の存したところであるが、戦中、戦後を通じて荒廃し、一部は農地として耕作されていた。原告は、前述のとおり、昭和二九年五月右区域につき占用許可を受けたうえ、一部耕作者に対して離作補償し、土地を整備してゴルフ場を建設したものである(なお、原告の経営するゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)は練習場及び九ホールのコースからなるものである。)。

ところで、原告の有する右の如き河川敷地の占用権は、排他的な使用権であつて、公法上の物権ないしは財産権としての性格を有するものというべきところ、本件不許可は、右原告の権利を喪失ぜしめるものであるから、財産権を保障する憲法第二九条に違反する。

3  本件不許可は本件ゴルフ場の九ホールのコースのうち、四ホールについてされたものであり、残余の五ホールのみではゴルフ場としての機能は全く消滅してしまい、原告のゴルフ場経営は不可能となるが、ゴルフ場が多数の従業員をかかえ、コースの管理に多額の費用を投じて運営されていることからすれば、これが突然閉鎖されることにより原告に多大の損失の生ずることは明白である。そして、仮に本件不許可につき公益上の必要性が認められるとしても、憲法第二九条第三項の趣旨からして、右不許可により原告に生ずる損失はあらかじめ補償されなければならないものと解すべきである。

しかるに、本件不許可に際しては、同不許可に係る区域以外の区域についてされた前記占用許可の許可条件第六項において、(1)芝等の撤去計画を京浜工事事務所長に提出し、承認を受けること(2)撤去計画に基づく、芝等の移植の履行期限は、昭和五〇年五月二一日までとし、撤去に要する費用は許可を受けた者の負担とする(3)特定区域(グリーン等その周辺)を除いた部分については、昭和五〇年四月一日以降自由使用に供するものとすること等と定め、全く補償しないばかりか、右不許可に係る部分のうち、右条件(3)にいう特定区域以外の部分の殆どにわたつて原告が植栽した芝等については、その移植の履行期限は右条件倒により昭和五〇年三月三一日までということとなり、財産的価植を有する右芝等の撤去の時間さえ与えていない。

したがつて、本件不許可はこの点においても憲法第二九条に違反する。

第三請求の原因に対する認否

請求の原因一及び二の事実は認める。同三1のうち、本件占用の目的がゴルフコースの設置であること、多摩川が一級河川に指定され、その管理権が昭和四一年四月一日以降建設大臣に移管したこと、その後にされた占用許可の期間が原告主張のとおりであること及び原告が昭和四四年一月一日従前占用していた区域の一部一一万九四〇五平方メートルを返還したことはいずれも認めるが、その余は争う。同三2のうち、原告が昭和二九年五月本件占用に係る河川敷地につき占用許可を受け、ゴルフコースを建設したこと及び本件ゴルフ場が練習場と九ホールのコースからなることは認めるが、その余の事実は知らない。その主張は争う。同三3のうち、本件不許可部分に本件ゴルフ場の九ホールのコースのうち四ホール分が存することは認めるが、その余は争う。

第四被告の主張

一  本件不許可は、以下に述べる経緯によつてされたものである。

1  昭和三〇年代以降における都市の急激な発展、過密化の進展及び生活環境の変化の中で、特に首都圏においては公園、緑地等の不足が著しく、公共の土地である河川敷地を国民のいこいの場として公共的に利用させるべきであるとの社会的要請が強まり、多摩川、荒川、江戸川の都市部に存する河川敷地の開放は国家的急務となつてきた。

2  昭和四〇年四月一日から施行された新河川法(昭和三九年法律第一六七号)においては、国土保全、国民経済上の重要度、広域上の見地から河川を一級水系及び二級水系に区分するとともに、一級水系の管理は建設大臣が管理を行うことにする等の全面改正がされたのであるが、当時の占用許可に基づく河川敷地の利用状況は、旧法時の河川管理者であつた都道府県知事がした許可処分に基づく占用が新法施行後もそのまま継続しているものであつて、私企業が独占排他的にその運動場としているものや営利を目的とするものであり、占用内容もゴルフ場、自動車練習場、農耕地等種々雑多であつた。

これに対し、先に述べた河川敷地の利用に対する国民的要望に加え、新河川法の施行にあたつて、河川敷地が洪水等を安全に流下せしめる目的を有する公共用物であるとの基本原則から、これを私企業の独占排他的使用から一般公衆の自由な利用に供すべきであるとする河川行政に対する要求も一段と強まつてきた。

そこで、建設大臣は、昭和四〇年六月一日付をもつて河川審議会に対し、「河川区域内の土地の占用許可の方針」について諮問をし、同諮問をうけた河川審議会は、同年一一月一〇日付をもつて、「河川敷地は、河川の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを流過せしめ、洪水による被害を除去し、または軽減するという極めて重要な目的に供されるべきものであるので、原則的には他の者の占用を認めるべきではないと考えるが、社会経済上の必要があつて、占用の許可を行う場合においては適切な許可方針を定める必要がある。」として、「河川敷地占用許可準則」を答申した。この答申をうけて、同年一二月二三日付で「河川敷地の占用について」という建設事務次官通達が発せられ、同通達において、河川敷地の適正利用と治水上の安全確保の観点から、右答申に沿つて「河川敷地占用許可準則」(以下「準則」という。)が定められ、河川敷地の占用許可について準則に従つて処理すべき方針が確立されるとともにその適正化が図られることとなつた。

ところで、準則によれば、河川敷地は公共用物として本来一般公衆の自由な使用に供すべきものであつて、特定人の使用に供すべきものではないことから、公園、緑地、広場、運動場、採草放牧地等公衆の自由使用を妨げないもの以外は占用を許可しないこととされ、したがつて、ゴルフ場の如きは占用許可の対象外となつた。しかも、準則は既存の占用に対しても適用が予定されていたのであるが、右の通達において「既存の占用のうち、準則に適合しないものについては、当該占用の実態、経緯等を勘案して、具体的な改善計画を樹立し、逐次準則に適合するように措置するものとする。」とされたため、本件ゴルフ場のような準則に適合しない既存の占用については、開放計画を樹立することにより段階的にその解消を図ることになつた。

3  かくして昭和四一年に東京都市部における河川敷地(多摩川、荒川、江戸川)の第一次開放計画が策定実施され、多摩川についても、昭和四一年度を初年度とし、三か年を目途とする河川敷地の第一次開放計画が策定され、既占用敷地のうち、橋梁の付近等一般公衆の利用しやすい箇所、占用状態が著しく不良である箇所、特定の個人のみの利用に供されている箇所等については、全面的開放措置が、学校の運動場等については、特定の日時を指定して一般公衆に自由使用される措置(以下「準開放」という。)等が実施された。そして、これによつて本件ゴルフ場の一部一一万九四〇五平方メートルが昭和四三年末占用期間の満了とともに返還され、公園緑地として一般公衆に開放されたのである。

4  第一次開放により全面開放された区域は、地方公共団体等の要望があればそれに対し占用許可を与えたうえ同団体等において、またそれ以外については河川管理者が自ら、運動場及び緑地として整備したうえ、一般公衆に提供され、また、準開放については、開放計画目標年次にとらわれず、許可条件において準開放日を継続させるとともに可能な範囲において独占使用から公共用物の本来目的である一般公衆の自由な使用に供すべき措置を継続してきた。

しかしながら、過密する都市部における公園、緑地の面積は著しく不足しており、到底右措置をもつて賄えるものではなく、さらに、国民の間には、生活福祉を優先する気運が高まり、都市部における河川の空間を積極的に利用したいとする生活環境面からの河川行政への要望はその後ますます高まつてきた。

このような背景から、建設省では、河川敷地の第二次開放計画を策定し、多摩川についても、昭和四九年度を初年度とする四か年計画で、既占用敷地のうち、ゴルフ場については、ゴルフ練習場として計画を変更するものを除き、全面開放の措置を講ずること、私企業の運動場については、地方公共団体等に移管するか又は準開放を強化すること等の開放方針が決定され、実施された。

5  本件不許可は、多摩川の第二次開放計画に基づき、公共用物である河川敷を広く一般公衆が利用できるようにするため、準則に従い、原告の占用許可申請に対しこれを許可しないことにしたものである。

二  本件不許可を実質的には占用期間の更新の拒絶であるとする原告の主張が失当であることは、以下述べるとおりである。

河川敷地の占用は、公共用物たる河川の例外的利用であることから、その期間の設定にあたつては、一般に占用目的を達成するため合理的にして、かつ、必要最小限のものとするのが相当である。

本件においては、神奈川県知事は昭和二九年五月ゴルフ場としての占用目的を達成するに足りる一〇年という合理的な期間を付して原告に対し河川敷地の占用許可を与え、原告は爾来一〇年間右許可に係る河川敷地をゴルフ場として使用しその占用目的を全うしたのである。しかし、原告から右期間満了後もなお継続して占用したい旨の要望が出されたので、当時新河川法の施行に伴い多摩川が一級河川に指定され、その管理権が建設大臣に移ることが予定されていたことから、神奈川県川崎土木事務所長は暫定的措置として短期間の占用許可を与えた。その後建設大臣に移管後は、前述のとおり第一次開放計画が策定実施されたが、同計画の実施状況、進渉状況を勘案しながら第二次開放計画の実施に至るまでの間被告において暫定的に占用を許可してきたものである。すなわち、準則によれば、占用許可期間は「公園、緑地、運動場その他これらに類する施設のためにする占用にあつては五年以内、その他の施設のためにする占用にあつては三年以内において…必要最小限度のものとしなければならない。」とされているところ、ゴルフ場については新規の占用許可の対象とはならないから、右規定がそのまま適用されるものではないが、既存の占用に係るゴルフ場については、右の「その他の施設」に準じて三年以内において必要最小限度の期間を定め、暫定的に占用許可を与えてきたものである。

したがつて、被告の行つてきた占用期間の設定は合理的な理由に基づくものであり、その期間の満了は、単に占用期間の満了を意味するものであつて更新を前提とする許可条件改定のための機会の発生とは異なり、また期間満了に伴う許可申請手続についても、形式的な事務手続としてされてきたものではない。

さらに、原告が当初占用許可を受けた昭和二九年五月四日からの占用期間を通算してみれば、原告の占用目的を達成するに十分な期間が経過しており、建設大臣が管理するようになつた後の占用期間を通算してみても約一〇年に近い期間が経過しており、原告の占用目的は十分達成されたものというべきである。

三  原告は、本件不許可処分には正当な理由がない旨を主張する。

しかしながら、河川法第二四条に規定する河川敷地の占用許可は、一定の申請に基づき、公物管理権の作用として、公共用物たる河川敷地を使用する権利を設定する行政行為いわゆる講学上の特許であり、一定の要件をそなえた申請に対しても、占有許可するか否かは河川管理者の自由裁量に属し、申請事業の公益適合性及び公共性等を考慮して決せられるべき自由裁量行為というべきである。しかも、本件不許可は、前述のとおり都市化の進展の中で公園、緑地等が著しく不足している現状にかんがみ、河川のもつ環境、すなわち、水と緑の空間を積極的に開放すべきであるという社会的要請のもとに策定された「多摩川における河川敷地の第二次開放計画」に基づき実施されたものであつて、河川敷地を広く一般公衆に開放しようとする点でより高度な公益性を有するものであり、原告の主張は失当である。

四  河川敷地開放計画に基づいて開放された河川敷地に設けられた公園、緑地は、河川の持つ水と緑のオープンスペースという環境を十二分に発揮できる形、つまり自然の川の流れの周辺に草が生えているという自然性あふれるものであれば、一般公衆の自由使用には何ら差しつかえのないものであり、かえつてそのような形こそ都市化の進展に伴い自然性の喪失している大都市周辺の住民のいこいの場としてふさわしいものである。

また、第一次開放計画によつて原告が返還した跡地は、川崎市が占用許可を得て公園緑地として適正に管理しており、毎年草刈りが行なわれるほか、サイクリング道路も設置され、一般公衆に利用されている。

したがつて、右跡地が荒廃したまま放置されているとの原告の主張は失当である。

五  原告は、河川敷地の占用権は排他的な使用権であつて、公法上の物権あるいは財産権としての性格が濃厚なものであるから、本件不許可処分は憲法二九条に違反する旨主張する。

しかしながら、河川敷地の占用許可は、河川の機能及び河川という公共用物に期待されている公益目的に抵触しない範囲内で河川敷地の利用による利益を享受させるものにすぎず、占用許可を受けた者には、占用許可を恒久化すべきことを河川管理者に要求するような権利は与えられていないのであつて、河川管理者が公共的又は公益的判断の上から河川敷地を必要とする場合には、占用許可を受けた者は、占用期間の満了と同時にこれを公共・公益のために返還すべき内在的制約を受けているものといわなければならない。

このことは、本件占用に係る河川敷地の占用料が一般の地代に比して極めて低廉であることによつても裏付けることができる。すなわち、右占用料は別表二のとおりであり、また普通財産の貸付料の算定には、固定資産課税台帳登録価額に一定の率を乗じたものに固定資産税相当額を加える方式が採られているが、本件占用に係る河川敷地のすぐ下流に位置する民有堤外地(川崎市幸区戸手四丁目四四七番の二)について右基準を適用してその貸付料を算定すると別表三のとおりとなり、前記占用料を右貸付料と比較しても、その低廉なことは明らかである。

なお、原告は、昭和二九年五月占用許可を受けてゴルフ場を建設しようとした際、一部耕作者に対し離作補償した等の主張をするが、仮にこのような事実があつたとしても、そのことにより原告の本件占有の性質が変更されるものではない。

したがつて、河川敷地の公共的利用という社会的要請に対処するため、原告の許可申請に対し、被告がその一部について占用許可を認めなかつたとしても憲法二九条に違反するものではなく、原告の主張は失当である。

六  原告は、何らの補償なくしてされた本件不許可は違法であると主張するが、本件不許可に係る河川敷地部分についての原告の使用権は、占用許可期間の満了日である昭和五〇年三月三一日の経過とともに消滅しているから、原告に損失の生ずる理由はない。しかも、第一次開放計画の策定にあたりすでに第二次開放計画が予定されており、近い将来において同計画が樹立され実施されるであろうことは原告も十分認識しており、またゴルフ場等特定の個人のみの利用に供されている箇所については当初から全面開放の方針であつたことに照らしても原告の右主張は失当である。

また、原告は、本件不許可は本件ゴルフ場の九ホールのコースのうち四ホール分についてされたものであり、残る五ホールではゴルフ場としての機能が全く消滅する旨主張しているが、本件不許可は前述したとおり公益的必要性に基づきされたものであつて、これによつて従前どおりのゴルフ場の機能を維持することが困難となつたとしても、それは公共用物たる河川敷地の占用許可を受けていた者において受忍すべき範囲内のことであつて、やむを得ないところである。

なお、第二次開放計画によつても、本件ゴルフ場を含む多摩川の河川敷地に存する三ゴルフ場については、占用許可を受けた者の転業等を考慮し、政策的な配慮から、その者が希望すればその一部をゴルフ練習場として残すこととしており、したがつて、第二次開放後もゴルフ練習場として占用を継続することは可能である。

さらに、芝等の移植の履行期間は、いわゆる特定区域以外の区域であつても、昭和五〇年四月一日から同年五旦三一日までの二か月間とされており、この点に関する原告の主張は失当である。

第五原告の反論等

一  被告の主張五のうち、本件占用に係る河川敷地の占用料が別紙二のとおりであることは認める。

二  被告主張の準則は新たな占用許可をする際の許可基準として策定されたものであつて、前示のように準則制定以前に占用が開始され、占用許可期間の更新がくりかえされている原告の本件占用に対し、その占用開始時より後に制定された準則を適用することは、原告の本件占用による利益を無視することとなり許されない。

よつて、本件不許可は準則に従つたものであるから違法ではないとする被告の主張は失当である。

三  河川敷地を一般公衆に開放するというためには、単に当該敷地について占用許可を受けている者の占用を失わしめるだけでなく、当該敷地を一般公衆の利用に供しうるように積極的な整備がされなければならない。しかるに被告主張の第一次及び第二次開放計画は、開放後の跡地利用について全く無計画であり、かかる計画について、河川敷地の開放という公益性が存するとは認められない。現に第一次開放計画に基づいて原告が返還した一一万九四〇五平方メートルの敷地について何らの整備がされていないことは前述のとおりであり、このような状態をもつて第一次開放計画の成果をあげたとし、ひきつづき第二次開放計画が策定されたとしても、右計画自体が不当というべきであり、同計画に基づいてされた本件不許可にも正当な理由がない。

第六証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件不許可につき原告主張の違法事由があるか否かについて判断する。

1  原告は、本件不許可は、実質的には占用期間の更新の拒絶であり、更新の拒絶については正当な理由を必要とするところ、本件不許可は右正当な理由を欠くから違法であると主張するので、まず本件不許可の性質について検討する。

もともと河川敷地は、河川管理施設と相まつて雨水等の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを疎通させ、洪水による被害を除却し又は軽減させるという重要な目的に供せられるべき公共用物であり、平水時には本来一般公衆の自由な使用に供せらるべきものであるから、特定人に対し本来の用法を超えて特別の使用権を設定する占用許可に当たつては、その占用期間についても、右目的を阻害することのないよう必要最小限の期間を設定すべきであつて、占用期間が占用目的に照らして極めて短期間であり、従前の占用の経緯やその実態さらには右公共用物であることからの制約を考慮に入れても、なお使用権の存続期間として到底合理的な意味を持ち得ないような例外的事情の存する場合を除いては、占用期間の定めは更新を予定するものではなく、当該占用許可に基づく使用権は右期間の満了によつて当然消滅するものと解すべきである。

よつて以下前記認定の原告に対する累次の占用許可の経緯、右各許可に係る占用期間を定めるについての事情等について検討する。

(一)  (当初の占用許可)

<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

原告はゴルフ場経営を目的とする株式会社であり、ゴルフ場建設の目的で別表一(1)の占用許可を受け(後に追加して同(2)の占用許可を受けた。)、右占用許可に係る河川敷地に本件ゴルフ場を設置し(この事実は当事者間に争いがない。)、当初は一八ホールのコースを有する会員制のゴルフ場としてその経営に当たつてきたが、右占用期間満了後原告に対してされたいずれも期間を一年とする別表一(3)及び(4)の占用許可は、当時新河川法の施行及び同法の施行に基づき多摩川が一級河川に指定されその管理権が建設大臣に移管することが予測されていたため、短期間の占用許可が付与されたものである。

(二)  (「河川敷地占用許可準則」の制定)

<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

昭和三〇年代以降の経済発展に伴つて首都圏に人口が集中しいわゆる都市化現象が進展するに伴い、従来あまり利用されていなかつた河川敷地が私企業等の厚生施設等の用地として注目されることとなつた。ところが、旧河川法においては河川管理は都道府県知事が行うこととされており、右企業等からの河川敷地の占用許可申請に対してその都度いわば無計画に許可を与えるなどし、必ずしも一貫性をもつた河川敷地の利用がされていない状況であつた。これに対し、昭和三〇年代の末ころから都市化の進んだ区域における緑地、広場、運動場等の不足が叫ばれるようになり、昭和四〇年三月三一日には衆議院体育振興特別委員会において、同年五月二六日には同決算委員会において、それぞれ河川敷地の公共用物たる性格に鑑み、特に都市周辺の河川敷地につき一般公共の利用に供すべき措置を講じ、また河川管理の適正を期するため占用許可基準を設けるべきことが決議されるに至つた。そして、右各要望決議に加えて、昭和四〇年四月一日新河川法の施行に伴い、重要な河川については建設大臣がその管理を行なうこととなつたことから、同大臣は昭和四〇年六月一日河川審議会に対し、河川敷地の占用許可の方針はいかにあるべきかについて諮問したところ、同年一一月一〇日これに対し河川審議会の答申がされ、同答申において、河川敷地の占用に関する許可の基準が提示され、これにより河川敷地の占用許可の適正化を図るべきものとされたので、これを受けて昭和四〇年一二月二三日付建設省発河第一九九号「河川敷地の占用許可について」と題する別紙一の内容の建設事務次官通達が発せられ、その中で準則が定められた。

(三)  (いわゆる第一次開放計画の策定実施と原告占用に係る河川敷地の一部開放)

(1) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

前示河川審議会の答申が出された後、特に公園・緑地の不足している都市部に存する河川敷地で従前ゴルフ場、自動車練習場その他企業が占用許可を受けて使用している区域について、一般公衆に開放すべきことを求める声が新聞等に見られるようになり、また前示通達において、既存の占用のうち準則に適合しないものについては、当該占用の実態、経緯等を勘案して其体的な改善計画を樹立し、逐次準則に適合するよう措置するものとされていたことから、建設省内部においても、準則の精神に沿つて、都市部に存する河川敷地で準則に適合しない既占用に係る区域を積極的に一般公衆に開放する措置を講ずべく検討が進められ、建設省河川局において、荒川、江戸川とともに別紙二記載の内容の多摩川河川敷地の開放計画いわゆる第一次開放計画が策定された。すなわち、多摩川は昭和四一年四月一日一級河川に指定され、建設大臣の管理するところとなつた(この事実は当事者間に争いがない。)が、当時多摩川の河川敷地のうち右計画の対象となつた部分には、私企業の運動場等準則に適合しない既占用区域が相当の面積を占めており、しかも堤内地は人口密集地であつて住民から公園・広場等の要求が強かつたにもかかわらず、河川敷地内に新たに右用途に供する場所を求める余地がなかつたことから、右開放計画の策定に至つたものである。

(2) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

別表一(5)の占用許可は、右のように当時建設省内部において準則に基づく第一次開放計画が検討されていたところ、これを実施するのにはなお若干の時間を要するとの理由から、特に短期間に限つて占用許可が付与されたものである。

ところで、第一次開放計画は昭和四一年七月一八日新聞等に公表されたが、被告は、同日原告を含むゴルフ場等全面開放の対象となる区域の占用者について、関東地方建設局に来庁を求め、右計画の趣旨を説明するとともに協力を要請し、かつ全面開放の対象となる部分の占用については昭和四三年一二月三一日までの占用しか認めない旨を通告した。そして、原告に対しては、一八ホールのコースのうち九ホール分一一万九四〇五平方メートルの部分については右昭和四三年一二月三一日までと期間を定め、その余の部分については、本件占用は本来準則に適合するものではないが、開放計画に組み入れられて開放の対象となるまでの間はなお占用を認めることとし、準則に占用期間として「その他の施設のためにする占用にあつては三年以内」と定められていることを斟酌して、前示(5)の占用許可に係る占用期間と合せて三年となるよう期間を定め、別表一(6)の占用許可が付与された。

全面開放の対象となつた前示九ホール分の部分は昭和四四年一月一日原告から返還され(この事実は当事者間に争いがない。)、その後本件ゴルフ場は、九ホールのコース及び練習場を宥するゴルフ場となり(この事実は当事者間に争いがない。)、会員制クラブを解散し、いわゆるパブリツク・コースとして経営が継続されることとなつたが、その後原告に対しさらに前同様準則の定める三年の期間を定めて別表一(7)の占用許可がされた。そして、同(8)の占用許可は、本件占用が本来準則に適合しないものであり、近い将来その占用の許可が与えられない事態となることが予測されたことから、かかる事態に対する準備期間という意味で短期間の占用許可が付与されたものである。

(9) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

右第一次開放計画は、昭和四一年度から昭和四三年末を目途に実施に移され、全面開放された場所はゴルフ場、自動車練習場等約一三八ヘクタール、準開放された場所は私立、公立学校及び私

企業の運動場等約五三ヘクタールにのぼり、昭和四五年末に完了した。そして、右第一次開放計画により返還された河川敷地については、東京都、川崎市等の地方公共団体が占用許可を受け、公園・緑地・運動場として整備し、当該河川敷地付近の住民を中心として一般公衆の利用に供せられている。

(四)  (第二次開放計画の策定実施と本件不許可)

(1) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

前認定の第一次開放計画の内容によれば、準則に適合しない既占有に係る河川敷地についての第二次開放計画は、右第一次開放計画において、同計画実施後の状況を勘案して定めるものとするとされており、既に第一次開放計画策定時にその策定実施が予定されていたものであるが、建設省では第一次開放計画実施完了後も、なお地方公共団体の受入態勢、管理能力等の状況を検討していた。しかしながら、昭和四三年以降都市化が一層進行する一方で社会資本の充実、生活環境整備等の要求が叫ばれろようになり、多摩川の河川敷地に関しても、地元川崎市長、同市議会議長その他地元住民から、建設大臣その他関係機関に対し、第二次開放計画を求める請願がされ、さらに昭和四八年八月二三日参議院地方行政委員会において、同年一一月二九日同決算委員会において、昭和四九年三月九日衆議院予算委員会第五分科会において、それぞれ右開放の問題が取り上げられて議論されるに至つたことなどから、昭和四九年五月一日荒川、江戸川とともに多摩川における河川敷地につき別紙三の開放計画いわゆる第二次開放計画が策定された。

そして、右計画においては、既占用敷地のうち本件ゴルフ場外二か所のゴルフ場についてはゴルフ練習場に変更するものを除き全面開放の措置を講ずるものとされた。

(2) <証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

別表一(8)の占用許可に係る占用期間満了時の昭和四九年三月三一日ころには右のとおり第二次開放計画が具体化し、原告に対する占用許可に係る河川敷地についても同計画に基づく全面開放の措置がとられることが予定されていたことから、原告に対し開放の際の協力を要望したうえ、占用期間を一年として同(9)の占用許可が付与されたものである。

第二次開放計画は昭和四九年五月二日新聞等に発表されたが、同日多摩川の河川敷地について同計画の実施を担当することとなる関東地方建設局京浜工業事務所は、原告を含む同計画により全面開放の対象となるゴルフ場の代表者の来所を求め、同計画の内容等を説明し、計画の具体的な実施案を各ゴルフ場側において作成することなど協力を要請し、その後も関係者に対し同旨の要請を重ねた。

しかし、原告は別表一(9)の占用期間満了前の昭和五〇年二月二七日さらに右(9)の占用許可に係る河川敷地と同一の地域につき同年四月一日以降の占用許可を申請したので本件不許可となつたことは前示のとおりである。

以上認定したところによれば、当初原告の得た占用許可は、ゴルフ場建設、経営の目的ではあるが、期間一〇年間であつてその占用目的に照らし決して短期間とはいえないし、その期間満了後引き続いて与えられた占用許可の期間はいずれも比較的短期のものではあるが、かかる期間が設定されるに至つたのは、公園・緑地の不足する都市部において河川敷地を一般公衆のための公園・緑地として確保すべきであるとの世論に応じ、河川敷地を私企業の占用から一般公衆に開放していくという政策を実現するための前示準則、第一次及び第二次開放計画との関連などからであることが認められ、占用の対象が本来一般公衆の自由な使用に供せらるべき公共用物である河川であることに由来する当然の制約というべきものであり、しかもこれら短期間の占用許可は当初の一〇年間の占用許可の期間満了後に与えられたものであること、さらに本件不許可に至るまでの累次の占用許可に係る占用期間を通算すれば既に二〇年余の期間を経過しており、ゴルフ場の設置という占用目的に照らしても、不十分とはいえないこと、本件不許可の直前の占用許可(別表(一)(9))を与えるに際しては近く予定されている第二次開放の際の協力を.要望して占用許可を与えていることなどからすれば、本件不許可の直前にされた占用許可(別表一(9))の期間は一年間という短期のものではあるけれども、右期間が占用許可の存続期間として合理的な意味を持ち得ないものとはいえず、右占用許可に係る使用権は右期間の満了によつて当然消滅すると解すべきで、本件不許可をもつてその実質は更新の拒絶であるということはできず、新たな占用許可申請に対する拒否処分と解すべきである。

<証拠省略>により認められるところの原告が本件ゴルフ場開設に際し当時当該河川敷地を耕作していた耕作者に対し離作料を支払つている事実も、右判断を左右するに足るものではない。

また原告は、従来本件占用許可に関する手続は極めて形式的に行なわれてきたもので、右は実質的に期間の更新にほかならない旨主張し、証人南保昭市の証言中にはこれに沿う供述があるけれども、原告からの累次の占用許可申請に対する許否及び許可を与える場合の期間の定めは、それぞれ当時における河川敷地の開放計画の実施計画等に照らし判断されてきたことは、前記認定から明らかであり、また前掲<証拠省略>によつても、占用期間の満了に際しさらに同一の河川敷地につき占用許可申請がされた場合における審査等については新たに占用許可を付与する場合と異なるところがないことが認められるから、原告の右主張は失当である。

そうだとすれば、本件不許可は実質的には占用期間の更新の拒絶であるとし、本件不許可は更新の拒絶に必要とされる正当な理由を欠くから違法であるとする原告の主張は、その前提において失当である。

2  原告の主張は、前示のとおり本件不許可を占用期間の更新の拒絶であるとし、本件不許可は更新の拒絶に必要とされる正当な理由を欠くから違法であると主張するものであるが、原告が河川敷地の占用許可の拒否処分としての本件不許可の違法をも主張するものと解しても、その理由のないことは、以下のとおりである。

即ち、河川法第二四条の規定に基づく河川敷地の占用の許可は、特定人に対し河川敷地の本来の用法を超えて特別の継続的な使用権を設定するものであり、講学上特許といわれる性質の行政行為であつて、右許可を与えるか否かは、公物管理者の自由裁量に属するものと解せられる。そして河川敷地の占用許可については昭和四〇年一二月二三日付建設事務次官通達により準則が定められ、被告は右準則の定める基準に依り占用の許否を決すべきこととなつたことは前記1の(2)に認定のとおりであるところ、右準則制定に関する前記認定の経緯及びその内容に照らせば、右準則が下級行政庁たる被告においてその自由裁量に基づき行使すべき権限を違法に拘束しているとは認められず、右準則に定める基準によれば、ゴルフ場の設置を目的とする河川敷地の占用許可申請については、許可を与えらるべき場合に該当しないことは明白であり、既占用に係るゴルフ場についても逐次準則に適合するように措置するものとされていたのであるし、その他前記1に認定の第一次、第二次開放計画の策定実施と本件占用の経緯に照らしても、本件不許可には何ら自由裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がないことは明白である。

なお、原告は、準則は本件占用に適用さるべきではないと主張するけれども、本件不許可は従前からの占用許可の許可期間の更新の拒絶ではなく、新たな占用許可申請に対する拒否処分であることは前記1に認定のとおりであるから、右主張の理由のないことは明らかである。

また、<証拠省略>によれば、本件ゴルフ場は比較的低廉な料金で利用できることから、各階層にわたる相当多数のゴルフアーに利用されており、その存続を望む声もあることがうかがわれ、また一般に近時ゴルフ人口が著しく増加し、スポーツないしは健全な娯楽としてゴルフを楽しむ者が多数存することは周知のところである。しかしながら、本件ゴルフ場が営利企業により経営されているものであつて、一定の料金を支払つた特定の者のみが当該施設を利用しうるにとどまるという点においては、何時何人でも自由に出入りして利用できるいわゆる開放された公園、緑地とは趣きを異にするものであるし、本件ゴルフ場の存する河川敷地付近の堤内地が極めて人口の密集した地域でありその住民らから公園等の用地として本件ゴルフ場の開放を求める要望が強く出されていたことなど前記1に認定の事実を考慮すれば、本件不許可により本件ゴルフ場のゴルフ・コースが存続しえない結果となるとしても、本件不許可に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとすることは到底できない。

さらに、原告は、第一次開放により原告が返還した部分は荒廃したまま放置されており、本件不許可に係る部分についても他に利用する必要性は全くないし、右のような状況を前提に策定された第二次開放計画自体が不当であると主張する。

しかしながら、第一次開放計画に基づいて全面開放された河川敷地が公園等として一般公共の利用に供されていることは既に判示したとおりであり、また<証拠省略>によれば、右原告からの返還部分についても、川崎市が占用許可を受けてその維持管理に当たつており、緑地、運動場とされ、一部はサイクリング・コースとなつており、年に二同程度除草等が行われ、付近住民を中心として一般公衆に利用されていることが認められる(前掲<証拠省略>のうちこの認定に反する部分は措信し得ない。)ところ、本件ゴルフ場及びその付近の写真であることは当事者間に争いがなく、前掲南保昭市の証言により昭和五〇年四月一日撮影されたことが認められる甲第二号証の一ないし一三、第一次開放計画により原告が返還した河川敷地の写真であることは当事者間に争いがなく、右証言により昭和五〇年九月一日撮影されたことが認められる甲第一〇号証の一ないし四並びに同証言によれば、なるほど右原告からの返還部分については、原告がゴルフ場として使用していた状況に比肩しうるほどの管理がされているとはいい難い状態にあるものと認められるけれども、営利企業が設置し、その管理に当たつているゴルフ場と同程度の管理をしなければ公園・緑地等として使用できないということにはならないし、準則の意図するところは、むしろ特定人による河川敷地の使用を廃して、一般公衆がいつでも自由に当該河川敷地に出入りし、その空間を利用できるようにするところに重点があるものと解せられるから、たとえ物的な施設の整備、その維持、管理が万全とはいい難い状況であつても、いわゆる開放の意義を失わしめるものではない。また、<証拠省略>によれば、本件不許可に係る河川敷地については、川崎市ないしは河川敷地に公園・緑地・運動場等を整備し、その維持管理を行うこと等を事業目的として昭和五〇年九月一日発足した財団法人河川環境管理財団に対し占用許可が与えられることが予定され、これらの者によつて公園等の施設の設置及びその維持管理がされ、一般公衆の利用に供せられることが予定されていることも認められるから、右原告の主張は失当である。

3  原告は、本件占用に係る使用権は財産権としての性格を有するところ、本件不許可は右権利を喪失させるものであるから、憲法第二九条に違反すると主張する。

しかしながら、原告の使用権は、その占用期間が満了すれば、それに伴つて当然に消滅すべき性質のものであつて、その占用期間において存続するにすぎないことは既に示したとおりであるから、本件不許可の如く、右使用権が期間満了により消滅した後新たに占用許可を与えないという拒否処分がされたからといつて、何ら財産権を侵害したことにならないことは明らかである。これを実質的にみても、本件占用に係る占用料が別表二のとおりであることは当事者間に争いがなく、右占用料は極めて低廉であつて、右使用権についてかかる低廉な対価の支払しかされていなかつたことからすれば、前示のとおり解したからといつて原告に酷とはいえない。そして、以上のことは、前記認定のように原告が本件ゴルフ場の設置に当たつて耕作者に対し離作補償料を支払つていることその他原告主張の事実によつて何ら結論を左右されるものではない。

よつて、前示原告の主張は失当といわねばならない。

4  原告は、また、本件不許可は、予めそれによつて原告に生ずる損失の補償がされていないから違法であると主張する。

しかしながら、本件不許可は、新たに占用許可に基づく使用権の設定がされなかつたというにとどまり、原告の有する使用権を喪失せしめたものでないことは、既に判示したところから明らかであり、河川法第七五条第二項第四号又は第五号に規定するように、占用許可に基づく有効な使用権を有するものに対し、公益上やむをえない必要が生じた場合において、その占用期間中に占用許可を撤回し、その使用権を消滅させる填.合(この場合には同法第七六条により損失補償を要するものとされている。)とは全く場合が異るのであるから、原告が本件不許可に係る河川敷地を継続して使用できなくなることによる損失の補償を要するとは解せられないし、これを義務づける特別の規定も存しない。そして、右使用権の存在を前提とする原告のゴルフ場経営等の利益が、右使用権が権利自体の存続期間の満了により消滅したことにより失われる結果となつたとしても、そのことは原告において当然受忍すべきものであるし、一般に公共用物の占用者は、その占用期間が満了した場合には、原状回復義務を負うものと解せられるから、本件不許可に係る河川敷地についての原状回復に関する費用についても原告において負担すべきものである。なお、<証拠省略>によれば、本件不許可部分に存する芝等の移植の履行期限は昭和五〇年五月三一日までとされていることが明らかであるから、右撤去の時間さえ与えられていないとの原告の主張は失当である。

そして、前認定の本件不許可に至る経緯によれば、原告においても、既に第一次開放計画が発表された時点から、早晩本件占用の継続が認められないこととなり、本件ゴルフ場の経営が不可能となる事態が十分に予測できたものと認められ(なお、原告千手堂尋問の結果中には、第一次開放計画発表時建設省の担当者から、本件ゴルフ場をいわゆるパブリツク化すれば、将来にわたつて長期間当該河川敷地の使用が可能である旨の助言を受けたとの供述があるけれども、右供述は、その助言者や助言の趣旨、内容が明確でなく、前示認定の妨げとはならない。)、右計画発表時から本件不許可に至るまでには、右事態に対処するに十分な時間的余裕があつたし、第二次開放計画が発表され、協力を要望されてからも本件不許可に至るまでには、一年近くの期間が置かれたことが認められるから、前示のとおり原告に対し損失補償が与えらるべきではないと解しても、酷とはいえない。

よつて、前示原告の主張もまた失当といわねばならない。

5  以上判示したとおり、本件不許可の違法をいう原告の主張はすべて失当である。

三  よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 山崎敏充)

別紙図面<省略>

別表一

許可期間

処分庁

許可処分

面積

(1)

29.5.4~39.5.3

(10年間)

神奈川県知事

神奈川県指令 河第605号

424,770m2

(2)

25.2.3~39.5.3

(4年3月間)

同上

同 河第1651号

上に追加して10,180m2

(3)

39.4.1~40.3.31

(1年間)

神奈川県川崎土木事務所長

同 39川土第56-6号

361,496.05m2(河川敷)

6.75m2(堤防敷)

(4)

40.4.1~41.3.31

(1年間)

同上

同 40川土第324-1号

359,128.82m2(河川敷)

67.75m2(堤防敷)

(5)

41.4.1~41.6.30

(3ヶ月)

建設省関東地方建設局長

66建関水敷 第35号

359,196.6m2

(6)

41.7.1~44.3.31

(2年9月)

同上

同 第205号

329,928.75m2

但し119,405m2につき

43.12.31まで

(7)

44.2.1~47.3.31(3年)

同上

69建関水敷 第91号

210,523.76m2

(8)

47.4.1~49.5.31(2年)

同上

建関水 第150号

同上

(9)

49.4.1~50.3.31(1年)

同上

同上 第119号

同上

別表二

自昭和二九年度

至同三二年度

自昭和三三年度

至同三九年度

自昭和四〇年度

至同四九年度

一平方メートル当たりの

年間占用料

五〇銭

三円

七円

別表三

昭和三九年度

昭和四五年度

昭和四八年度

一平方メートル当たりの

年間貸付料

七二円

九三円

一一五円

別紙一

河川敷地の占有許可について

昭和40年11月10日付け河川審議会の答申に基づき、別紙のとおり、河川敷地占用許可準則を定めたので、下記事項にご留意のうえ、河川敷地占用許可の適正な執行を図られたく、命により通達する。

1 占用許可の基本方針について

河川敷地は、河川の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを流過せしめ、洪水による被害を除却し又は軽減させるためのものであり、かつ、公共用物として本来一般公衆の自由なる使用に供されるべきものであるので、原則としてその占用は認めるべきではないが、社会経済上必要やむを得ず許可する場合においては、河川敷地占用許可準則(以下「準則」という。)第3に従い処理するものとすること。

なお、次の各号に掲げる施設のためにする占用以外の占用は、許可しないものとすること。

一 公園、緑地及び広場

二 一般公衆の用に供する運動場(営利を目的とするものを除く。)

三 児童、生徒等が利用する運動場で学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する学校が設置し、管理するもの

四 採草放牧地その他これに類するもの

五 その他営利を目的としないもので、その占用の方法が河川管理に寄与するもの

2 公共性の高い計画との調整について

(1) 道路橋、公園等の公共性の高い事業のための占用の計画が確定している場合においては、他の者に対する占用の許可は、これを抑制し、又は許可期間を制限する等の適切な措置を講ずることにより、当該公共性の高い事業のための占用の計画に支障を及ぼさないようにするとともに、占用に伴う補償等の問題の発生を防止するものとすること。

別紙二

多摩川河川敷地の開放計画

東京都及びその周辺の都市における公園、緑地等の不足が著しい現状にかんがみ、多摩川河川敷地等を一般公衆の利用に供するための第一次の開放計画をつぎのように定める。なお、第二次の開放計画については、第一次の開放計画実施後の状況を勘案して定めるものとする。

1 実施期間

開放計画の実施期間は、昭和41年度を初年度とし、3ヶ年を目途とする。

2 対象区間

開放計画の対象区間は、多摩川の日野橋から河口に至るまでの約40kmとする。

3 開放の方針

イ 既占用敷地のうち橋梁の附近等一般公衆の利用しやすい場所を専用している箇所、占用状態が著しく不良である箇所、特定の個人のみの利用に供されている箇所等については、全面開放の措置を講ずるものとする。

ロ 学校の運動場等については、特定の日時を指定して一般公衆に自由使用させる措置(以下「準開放」という。)を講ずるものとする。

ハ 都市河川整備事業の実施により所要の河川敷地の造成を行うものとする。

ニ 既に公園、緑地等として占用されている箇所については、その整備を促進する。

ホ イ及びハの措置を講じた河川敷地については、引続き公園、緑地整備事業を実施するものとする。なお、開放計画の実施に伴い今後公園、緑地及び広場並びに一般公衆の利用に供する運動場以外には新たに占用を許可しないものとする。

4 開放面積

イ 既占用敷地(約310ヘクタール)のうち新たに開放するもの・・・約150ヘクタール

全面開放 約100ヘクタール

準開放  約50ヘクタール

ロ 都市河川整備事業により新たに造成するもの・・・約40ヘクタール

ハ 既占用敷地のうち開放済みのもの・・・約55ヘクタール

以上により、公園、緑地等として一般公衆の利用に供しうる面積は、合計約245ヘクタールとなる。

5 計画の実施

開放計画は、関東地方建設局長が公園、緑地等の整備計画を勘案して、その実施にあたるものとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例